【初心者向け】SAPとは?ERPシステムの世界No.1ベンダーを分かりやすく解説
ITの世界で「SAP」という名前を聞いたことはありませんか?特に企業システムの分野では非常に有名な会社とその製品群を指しています。今回は、SAPとは何なのか、なぜこれほど重要なのかを分かりやすく解説していきます。
SAPとは何か?
SAPとは、SAP SE(以下、SAP社)が開発・販売しているビジネスソフトウェアの総称です。SAP社は、ドイツに本社を構えるソフトウェア企業で、主に企業向けのビジネスソフトウェアを提供している会社です。同社は世界180カ国に法人や開発拠点を持つグローバルな企業でもあります。
SAP社が販売している製品の中で、特に知られているのがERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)ソフトウェアです。ERPとは、企業の様々な業務プロセス(会計、人事、在庫管理、販売管理など)を統合的に管理するシステムのことです。現在、同社の主力製品は「SAP S/4HANA」というERPソフトウェアとなります。
SAP社は、大企業向けのエンタープライズソフトウェア市場で圧倒的なシェアを持ち、ERP分野で世界一のベンダーです。2017年時点で、SAP社は世界190カ国で約34万の企業顧客を抱えています。フォーブス誌の「フォーブズ・グローバル2000」ランキングに掲載された企業の87%がSAPの顧客であるというデータもあり、これはSAPが多くの大企業や業界リーダーから信頼され、支持されていることを示しています。
近年では、人工知能(AI)やインターネット・オブ・シングス(IoT)、ブロックチェーンなどの最新技術を自社製品に積極的に取り入れ、顧客企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を強力にサポートしています。

SAP社の歴史と発展
SAPを理解するために、まずはSAP社の歴史から見ていきましょう。SAP社は、1972年にドイツで小さな会社としてスタートしました。創設メンバーは、当時のコンピュータ業界の巨人であるIBMを退社した5人のエンジニアでした。彼らは、ビジネスに役立つソフトウェアを作るためにSAP社を立ち上げました。今でいうスタートアップベンチャーですね。
ちなみにSAP社の名前の由来は、創業当時の会社名「System Analysis Program Development(Systemanalyse Programmentwicklung)」(ドイツ語でシステム分析とプログラム開発という意味)から来ています。このドイツ語名を略してSAPと呼ばれるようになりました。
最初の製品は、1973年にリリースされた「RF」という財務会計ソフトウェアでした。「RF」は、企業の会計情報を統合的に管理し、分析するためのソフトウェアです。その後、このソフトウェアは「SAP R/1」としてメインフレーム上で動作する会計システムに進化しました。この名前の「R」は、「リアルタイムデータ処理」を意味し、当時からSAP社が「リアルタイム経営」をコンセプトに製品を開発していたことを示しています。
1979年には、SAP社が世界初の統合企業資源計画(ERP)ソフトウェア「SAP R/2」をリリースしました。これにより、企業はさまざまな業務を統合し、業務データを一元管理できるようになりました。現在、多くの企業で使用されているERPシステムの基盤となった製品であり、ABAP言語(SAP独自のプログラミング言語)もR/2から採用されました。

「SAP R/3」の登場で世界No.1のERPベンダーへ
1992年、SAPは「SAP R/3」という新しいERPソフトウェアを発表しました。この名前の「R/3」は、第3世代のERPソフトウェアを意味しています。
「R/3」の登場により、これまで以上に広範なビジネスプロセスをカバーし、自動化による業務の標準化や効率化が図れるようになりました。導入に際して、企業は「業務をシステムに合わせる」という考え方を元に、自社の業務を見直し、世界標準のビジネスプロセスを採用し、業務の改革を行いました。このアプローチは、ERPシステムの導入における業務改革手法であるBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)として知られています。
また、ERP導入により、情報が1つのシステムで一元管理され、経営者は必要な情報を迅速に取得できるようになりました。これは、飛行機のコックピットですべての計器を一目で確認する感覚に似ており、「コックピット経営」や「リアルタイム経営」と呼ばれ、意思決定の迅速化と正確性をもたらしました。今で言う「ダッシュボード経営」と近い考え方です。
さらに、クライアントサーバーアーキテクチャの採用により、システムの柔軟性と拡張性が向上しました。今では当たり前ですが、データベース、アプリケーションサーバー、クライアントの3つの層からなる「3層構造」を採用することで、リアルタイムデータ処理を実現することができるようになったのです。
1990年代のERPブームに乗り、SAP社は「SAP R/3」によって市場シェアを急拡大し、ERP分野のリーダーとしての地位を確立しました。この成功により、SAP社は、革新的なソリューションを生み出す世界No.1のERPベンダーとしての地位を確固たるものとしました。
SOA指向のアーキテクチャへ移行
2004年、SAP社は「SAP R/3」の後継製品として「mySAP ERP」を発表しました。この新しいバージョンは、既存のERP機能を向上させるだけでなく、「SAP NetWeaver」プラットフォームの導入により、より使いやすいユーザーインターフェースとインターネットベースのサービスを提供しました。
「SAP NetWeaver」は、企業内のさまざまなアプリケーションやテクノロジーを統合するためのプラットフォームです。このプラットフォームを使用してERPシステムを構築することで、他のSAP製品やサードパーティ製品との統合が容易になり、異なるビジネスプロセスやデータを一元管理できるようになりました。
このアプローチは、サービス指向アーキテクチャ(SOA:Service-Oriented Architecture)と呼ばれます。SOAとは、ソフトウェア機能を再利用可能なサービスとして設計し、これらのサービスを組み合わせてビジネスプロセスを構築する方法です。SAP社はこのコンセプトを「ESA(Enterprise Service Architecture)」として提唱しました。
SAP社がSOAを採用した背景には、ビジネス環境の変化に柔軟に素早く対応するためという理由がありました。各アプリケーションを独立したサービスとして分割することで、必要なサービスを組み合わせて簡単に最適なソリューションを生み出すことができます。特に自社に合ったシステムを求める傾向の強い日本企業にとって、SOAは最適なシステム配置を構築できる手段となりました。
2006年には、「mySAP ERP 2005」が「SAP ERP 2005」と改称され、「SAP ERP 6.0」がリリースされました。このバージョンは、SOAや内部統制への対応が特徴で、SAP社のコンセプト志向が強まった時期でした。
第4世代のERPソフトウェア「SAP S/4HANA」の登場
現在の主力製品であるSAPの次世代ERPソフトウェア「SAP S/4HANA」は、2015年にリリースされました。第4世代と呼ばれるERPソフトウェア製品です。SAP社のインメモリデータベース「SAP HANA」を採用することで、リアルタイムでのデータ処理と高度な分析を可能にしました。
インメモリデータベースとは、データを従来のハードディスクではなく、メモリ(RAM)上に格納して処理するデータベース技術です。メモリはハードディスクよりもはるかに高速でデータにアクセスできるため、大量のデータを瞬時に処理することが可能になります。これにより、従来のERPシステムでは時間がかかっていた複雑な分析やレポート作成が、リアルタイムで実行できるようになりました。
「SAP S/4HANA」は現在、オンプレミス版(自社内にサーバーを設置して運用する形態)とクラウド版(インターネット経由でサービスを利用する形態)の両方が提供されており、企業の規模やニーズに応じて選択できます。その柔軟性と豊富な機能により、ビジネスのあらゆる場面で必要な情報を効果的に管理できるようになりました。
また、「SAP S/4HANA」では、モバイルデバイスでの利用を前提としたユーザーインターフェース「SAP Fiori」が採用されており、従来のERPシステムよりも直感的で使いやすい操作性を実現しています。これにより、ITに詳しくないユーザーでも簡単にシステムを利用できるようになっています。
まとめ
今回は、SAPとは何か、そしてSAP社の歴史と製品の進化について解説しました。SAPは単なる企業向けソフトウェアではなく、世界中の多くの企業の基幹システムとして活用されている重要なプラットフォームです。さらに、SAPは常に最新技術を取り入れており、AI、IoT、クラウドなどの技術トレンドを学ぶ上でも参考になります。SAPの技術動向を追うことで、エンタープライズITの将来像を理解することができるでしょう。
今後も、SAPは企業のデジタルトランスフォーメーションを支援する重要なプラットフォームとして進化し続けることでしょう。
引用元:図解即戦力 SAP S/4HANAの導入と運用がこれ1冊でしっかりわかる教科書

